■ 「部下がなかなか成果を挙げてくれない」

「部下がなかなか成果を挙げてくれない」 そんな悩みを抱えている人は多いはずだ。 いつまでも業務に精通せず、会社の戦力となるどころか、チームの足を引っ張り続けてしまう……そんな新人をどう扱っていいのかわからなくなり、「自分の指導法が間違っているのか」「自分にリーダーとしての資質が無いのか」と悩んだり、居酒屋で「今年の新入社員は……」とぼやいたりする。 そしてある日、ついに何もかもが面倒くさくなり、いろいろ考えずにこう言い放つのだ。

「もっとやる気を出せ!」 ところが、それで結果を出す部下は、いない。 自分の言葉は部下に響いていないのか? リーダーとして、自分はどうすればいいのか? 特に初めて部下を持った時には、多くの人がそんなことで悩むだろう。
さらに、社会人一年生のころには、自分自身がリーダーから「もっとやる気を出せ」とハッパをかけられる側だったはずなのだ。
たとえば、とび込み営業の新人の場合……つい前の月まで学生生活を楽しんでいた新人に、そう簡単に新規契約が取れるはずがない。一日中歩き回っても成果が得られず、くたくたになって帰社すると上司の怒鳴り声が飛んでくる。

「手ぶらで帰ってくるな。やる気はあるのか!」 やる気、根性と体力にかけては人並み以上のつもりだったし、同期に負けたくないという競争心も持っている。実際、一件でも多く訪問するためにランチタイムさえ節約していたほどだ。 しかし、生真面目に訪問件数を増やすだけでは成約につながらない、というのが、ビジネスの難しいところだ。

セールスにはいくつかのコツがあるが、そういうことは研修中に誰も教えてくれない。お辞儀の角度や名刺の渡し方を習い、先輩営業マンと何日か行動をともにしたら、すぐに独り立ちをさせられる。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは名ばかりで、成果を挙げるためのスキルはほとんど身につける機会はない。 一週問や二週間は文句を言われない。成約ゼロで社に戻っても、上司は理解を示し、やさしい言葉をかけてくれる。 そのうち微妙な空気が漂い始め、居心地が悪くなる。

そんなプレッシャーを跳ね返そうと精力的に訪問するのだが、やはり成約は取れない。 そんな時さらに上司からこう言われる。 「やる気を出せ!」 これはかなりこたえるだろう。
「やる気ならありますよ」と反論したいが、成果を挙げていないのは事実だ。契約の取れない営業マンに存在価値はない。こんなことで悩む新人は多いはずだ。

「行動科学」という、科学的な手法を学んだ今ならはっきりと言える。このような人は営業のやり方を「知らなかった」だけなのだ。 根性と体力だけで伸ばすことができるのは、腕立て伏せの回数くらいなもの。
ビジネス現場においては、がむしゃらに突き進むだけでは、業績は簡単には上がらない。契約を取るには、当然、契約を取るための具体的な行動が必要なのであった。

たとえば、あなたが「飛行機を操縦しなさい」と言われたらどうするだろう。 いきなり飛行機のコックピットに座らされ、「さあ、操縦していいんですよ。どうぞ、やる気を出して!」 そのようなことを言われても、飛行機を飛ばすことはできない。
具体的にまずどんな準備をして、次にどのような行動をすればいいのかを教られなければ、やる気を出したからといって、空を飛ぶことなどできない。 多くのビジネスパーソンは、この事実を見過ごしてしまっている。

「部下の教育」に当たって、ざっと教えただけで「さあ飛べ」「とにかくやってみろ」とばかりに尻を叩いてしまうのだ。 たとえば中堅以上のパイロットに新型機を与えるのであれば、そういう教え方も通用するだろう。しかし相手がまったくの新人だったら?  ベテランが当たり前にやれることも、彼らにとってはすべてが未経験ゾーンだ。本人のやる気やモチベーションをうんぬんする前に、正しいやり方を正しく教えなければならない。

ビジネスも同じである。 上司から部下へ伝えるべきものは、「やる気を出せ!」というセリフではなく、具体的な「やり方」「方法」であり、それに楽しんで取り組むことができるしくみなのである。

囲碁を楽しむには「定石」と呼ばれる、最善の打ち方のパターンを学ぶ必要がある。囲碁のルール自体は簡単だが、定石を知らないと、まともに戦うことができない。 ところがビジネス現場では、多くのリーダーたちが「相手を囲めば勝ちだ。さあやろう」とだけ教えている。
石を持たされた初心者は、どこに打てばどうなるのか見当もつかない。そしてアドリブの手を打って叱られる。 「そんなところに打ってどうするんだ。やる気はあるのか!」 もちろん、「やる気」などというもののせいではない。 「やり方を知らない」、これだけなのだ。

参考文献 「やる気を出せ!」は言ってはいけない  石田 淳著 フォレスト出版