偶然をチャンスに

自分自身、あるいは特定の人物について「私は運が悪い」「あの人はいつも運がいい」などと述べることがありますが、果たして本当でしょうか。

中には生まれつき強運な人もいるのでしょうが、運の善し悪しがすべて、あらかじめ決まっているとは思えません。 「運がいい」人たちは、「私はこうありたい」「こんな人生を生きたい」という、心の底からのまっすぐな願望を抱いています。そして、幸福をもたらしてくれそうな出来事や出会いがあれば、すぐに行動を起こしています。

そういう人には、まわりもつい機会を与えたくなるものです。この「機会の多さ」こそ、彼らの強運の秘訣だと考えられます。 世の中も人生も、絶えず変化しています。幸福や成功に導いてくれる「波」「流れ」はきっと存在します。それに気づくことができるかどうかで、未来は大きく変わっていくはずです。

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成功者に話を聞くと…

世の中で成功者と思われている人、第一人者とされている人などに話を聞くと、「私はたまたまラッキーだったんですよ」という言葉が返ってくることが多いようです。恩師や上司、仲間など、素晴らしい協力者や理解者との出会いに恵まれたり、転機となる出来事が起きたり。人から言われた言葉や、読んだ本をきっかけに、人生が大きく変わった人もいます。

事情は人それぞれですが、とにかく、自分の成功は偶然の出来事のおかげなのだから、特別な秘訣などは思い当たらない、というのが彼らの言い分です。

けれども、彼らが言う「ラッキー」は、棚からぼたもち式に得られるものではありません。同じような出来事に遭遇しても、それに気づけなかったら、あるいは生かせなかったら、結果は違っていたでしょう。

「幸運」は偶然ではない

それだけではありません。成功者たちは、あとで振り返れば「自分はラッキーだった」と思える出会いや出来事を、人生により多く引き寄せるような習慣を持っているものなのです。 偶然やってくるチャンスに、いつも心を開いておくこと。そして、それを積極的に取り入れていくこと。

それができるかどうかが、幸運をつかめるか否かの運命の分かれ道です。 この発想は、東洋では昔から「ご縁」として親しまれてきました。ご縁を大切にし、偶然を味方につけられるようになると、人生の可能性はどんどん広がり、楽しく豊かになっていきます。

一方、能力や才能がありながら、やせ細った人生しかおくれない人もいます。せっかく良いご縁があっても、心を閉ざしてしまう人です。

「私にはとても無理です」「私の専門ではありませんから…」 このような否定的な言葉ばかり口にしていると、その人の人生に何かが生まれようとしていても、芽を出せずに消えてしまうのです。

「プランド・ハプンスタンス理論」

アメリカ・スタンフォード大学のクランボルツ教授が提唱した、「Planned Happenstance Theory(=計画された偶然性理論)」という理論があります。

多くのキャリアカウンセラーの間で共感を呼び、実践されているのですが、この理論では「真の成功者は、偶然の出会いや出来事を受け身で待つだけでなくそれらが自分の人生で頻繁に起こるよう積極的に働きかけ、意図的・計画的に行動している」と考えます。

したがってキャリア形成においては、従来の「キャリア・アンカー(どうしても譲れない価値観など)を意識し、目標を設定し、計画を立てて努力していく」方法だけでは不十分で、予想外の「偶然」を生かすことが重要になってきます。

成功の8割は「偶然」から始まる

クランボルツ教授は、実際に多くのビジネスパーソンに調査を行い、この理論をまとめました。成功した人々に自分の仕事や人生を振り返ってもらい、その中で大きな節目となった出来事を分類したところ、努力して手に入れたものはわずか2割ほどで、あとの8割は「偶然」、つまり予期せぬ出会いや出来事に心を開いて関わった結果、生じたものだったのです。

普段から好奇心を大切にして、自分のアンテナに引っかかった人やことに自ら近づいていく行動パターンを持つ人ほど、好ましい偶然と出会う確率も飛躍的に高くなります。そうして出会った偶然は、もはや単なる偶然ではありません。人生に幸福をもたらす「意味のある偶然」です。

それならば、ぜひとも偶然を味方につけて、幸運を呼び寄せたいものですね。クランボルツ教授によると、それには5つの心構えが大切だといいます。

[1] 好奇心

はじめに持ちたいのが好奇心です。好奇心こそが「人生を豊かにする偶然」とあなたを近づけてくれます。

たとえば仕事の研修やパーティーなどのイベントに「面倒だなぁ」「忙しいから」と参加しないでいるのと、「意外に面白いかもしれない」「ちょっと気になるから行ってみよう」と考えて足を伸ばすのとでは幸運をキャッチできる確率は雲泥の差です。

[2] 粘り強さ

いろいろなことに興味を持っても、続きがないなら「偶然」は実を結びません。充実した人生をおくっている人の共通点として、「自分が納得いくまでこだわる」「熱中して取り組む」「取り組んだことは、多少の困難があっても投げ出さない」という特徴があります。

与えられた仕事を一時しのぎのものと考え、手を抜いて取り組んでいたのでは、いつまでたっても面白みに気づくことはないでしょう。反対に、たとえ気乗りしない仕事であっても、「同じやるなら…」と心を込めて取り組めば、何か得るものがあるはずです。粘り強くやり遂げることは、天職に巡り会うための近道でもあります。

[3] 柔軟性

一方で、いくら粘り強さが必要だといっても、それが「かたくな」であってはなりません。特に人生のターニングポイントにおいては、柔軟性がとても大切です。あらかじめ決めていた目標や計画にこだわり過ぎず、オープン・マインド(開かれた心)で、「ちょっと当初の計画とは違うけど…ま、面白いからやってみるか」という姿勢を持つ。これは、せっかくのチャンスを無駄にしないための一番のコツです。

[4] 楽観性

「ダメでもともと」「とりあえず、やってみよう」といった楽観的な態度も必要不可欠です。 「困難もありそうだが、そのうち好転するはずだ」「本気でやればなんとかなる」と、自分の人生を信じることは、非常に大きな意味を持ちます。リスクを伴わないチャレンジなどありえないからです。人生を消極的に考えていると、目の前のチャンスを逃してしまいます。

「やったことがなくても、できないとは限らない」と、思い切ってチャレンジすれば、思わぬ成果があるかもしれません。

[5] リスクテイク

「楽観的な生き方」とは、リスクを取ることを恐れない生き方でもあります。 リスクを取ることや状況を変えることに対して臆病になるのは、人として当然の心理でしょう。しかし、だからといって安全な道ばかり選んでいると、その人の運命は凝り固まってしまい、人生の面白さを味わえません。

あらゆる出来事、とりわけ大きな転機には、リスクが付き物です。ある程度のリスクを取りながら、心の声に耳を傾け、自分の素直な気持ちに従って、一歩踏み出す勇気を持ちましょう。こうした姿勢こそが、新しい人生を切りひらくときに必要なものです。

参考文献:「偶然をチャンスに変える生き方」(諸富 祥彦 著 / ダイヤモンド社 )

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