共に学び成長する関係

IT化が進み、パソコンで多くの仕事が処理でき、仕事の分野が細分化され、専門化し、ディスクに閉じこもって働く傾向になりがちです。そのため、他者とのコミュニケーション不足が起こっています。

しかし、よい結果を生むには、まず人と人との関係を良好にし、会話や対話を通じ思考や、行動の質を高めアイデアを生み出さなればなりません。いくら能力のある人でも、周囲とのかかわりが少なく、必要な情報や助言がもらえない状況の中では力を発揮し続けることは困難です。ベースにあるのは関係性であります。

お互いの関係性がもたらす知恵や感情が、個々の人に影響を与え、それが行動の質を高めます。リレーションシップという質の高い関係性が、お互いの力を引き出し、結びつけることになります。

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「リレーションシップ」がマネジメントを変える

個人偏重のマネジメントでは、もう成果を出すことができなくなっています。こうした状況の変化にお互いが連動して仕事を成功に導くように支援し合う「関係志向のマネジメント」すなわち「リレーションシップ」という概念が注目されている。

多様な分野で一人ひとりが成果を出さなければならない。でも、それを個人の力だけに依存するのではなく、お互いが力を貸し合い、支援し合う。 ここぞというときには役割や部門を超えた柔軟な連携が生まれ、組織全体の動きをつくり出す。こうした柔軟性のある、変化、多様性、複雑性、リスクに対処できる組織マネジメントだ。

すべての人たちを同じ方向に向けて、集団としての力を結集する「集団志向のマネジメント」ではなく、個人が自分の仕事でより高い成果を出せるように、最大限引き出す「個人志向のマネジメント」ではない。

何よりも周囲の人たち、自分と関わる人たちとの「つながり」を基軸にマネジメントを考えるという視点だ。具体的には、周囲の動きを見ながら、自分の役割を柔軟に組み替え、組織成果に向けて互いに支援し合い、連動して動くということ。「人と人とがつながる力」を最大限発揮できるようにする。

そうした関係志向のマネジメント、つまり「関係性そのものが人を動かす」という考え方にもとつく「リレーションシップ」を組織の中につくり出す。

大事なのは「情報の共有化」ではない

インプット以上のアウトプットを生み出すのがマネジメントの役割 一人でできることは限られているからこそ、人は集団になり、各人の知恵と労力を提供し、一つの大きな力に変えていく。組織とは、インプットの総和以上のアウトプットを生み出すために人間がつくり出した仕組みだ。

近代組織論の祖といえるチェスター・バーナードは、組織の条件として、「共通目的」「協働意欲」「コミュニケーション」の3つが必要だと言っている。

一人ではできないことを成し遂げるために集まった人たちが、共通の目的をもち、一緒に力を合わせようとする意欲を共有し、さらにそこに実際の知恵と労力を重ねるためのコミュニケーションが起こり、実際の動きをつくり出す。

実際に形としては組織であっても、組織と呼べない組織は世の中にたくさんある。共通の目的が見えない、一緒にがんばっていると思えない、対話がきちんとできていない。これでは、組織とはいえない。

多くの人たちが集まって知恵と労力を提供し、また組織として機能するための仕組みと実際の動きをつくり出し、一つの力に変え、インプットの総和以上のアウトプットを生み出すことを成し遂げることが、マネジメントです。そこで、優秀なマネージャーが活躍することが期待される。

マネジメントに欠かせない2つの仕事

マネジメントには大きく2つの仕事があります。ひとつは多くの人たちに組織の目的や目標を示し、その実現に向けて知恵と労力を重ね合わせることができるように、仕組みやメカニズムを設計すること。もうひとつは、実際に人に働きかけ、実際の行動が生まれる状況をつくり出すこと。

たとえば、野球やサッカーなどのチーム・スポーツでは、監督の仕事は状況に合わせて指示をしたり、叱咤激励してやる気を引き出すことだけではない。監督の仕事はチームを勝利に導くことだ。

まずは、監督がどういうチームづくりをするかを示して、選手集めからはじめる。戦力が決まったら、選手の特徴を見極め、チームとして勝つために最適な戦略とフォーメーションを決める。守備型のチームにするのか、攻撃型のチームにするのか、どんなフォーメーションを組むのか、一人ひとりのポジションをどうするか。

各人がその与えられた役割を果たせるように、練習の中でシミュレーションして、状況に合わせた判断の仕方と動き方を教えていく。チームとしての勝ち方と一人ひとりの動き方を共有し、頭と体が自然と反応できるように練習を積み重ねる。

そして実践、すなわち試合になったら、選手の体調や調子を見て、具体的な動き方、ポジションを修正していく。相手の動きを見ながら、一人ひとりの選手が自分の最大のパフォーマンスを出せるように、メンバー間でうまく連動して良い動きになるように、細かい動きを修正していく。

弱気になったり、あきらめ感が出てきたら、メンバーを勇気づけたり、鼓舞する。明らかに調子が悪い、あるいは相手の動きを見て別の選手のほうが良いと判断したら、メンバーを交替させる。

「方向を示す」ということはチームとしての勝ち方を決め、そのために最適な各人の動き方を決める。。

そして、「人を導く」ということは実際の動きの中で、指示をだしたり、調整をしたり、連動しながら一人ひとりが目指す目的に向けて行動を起こさせ、持続できるようにすること。マネージャーの資質が求められている。

相互理解のマネジメント −信頼関係をベースにする

そもそも、人間がお互いを正しく理解するのはむずかしいことだ。異なる意思をもち、経験をしてきた人たちが、一緒に活動するためには、相手が異質で、自分を脅かす存在ではないということを理解することからはじめる必要がある。

その人の外見、振る舞いを見て、その人に近づいて良いのかどうかを判断する。自分にとって危険な存在だと思えば、距離をとり、関わらないようにする。だから、最初の段階でお互いが危険な存在ではない、むしろ自分と変わらない、基本は同じであると理解をすることが大事だ。

お互いの言葉、振る舞いの背景にある経験や考え方、感じ方などを知り、その人が言っていることの意味、意図を理解する。その人の言動を理解すると、誤解することは減る。

まずは相互理解を進めることが、お互いが支え合い、結びついて仕事をし関係を築くことが不可欠だ。 そして、自分と根幹の部分では同じものをもつている人である。そうした安心感をもてるようにする。

いわば、バラバラだったものを重ね合わせ、共通点、一致点を見つけていく作業だ。 つまり、お互いが助け合い、協力し合い、連動していくためには、相手への感度を高め、相手の立場で考え、行動を起こせるようになることが必要だ。

そのとき、他者が感じている体験に対して、適切な感情移入ができる共感性がカギになります。他者の経験を自分のことのように感じる力だ。 組織の中に良い連動性をつくり出していくために、まずはお互いを理解し、お互いへの共感性を高め、一緒に働くうえでお互いに守りたいことをもち寄り、ベクトル合わせをする。これが、関係志向のマネジメントの第一歩である。

参考文献:『人がつながるマネジメント』 (高橋克徳 著/ 中軽出版)

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