今、この瞬間に・・・

 現在の日本では労働力人口が年々減少しており、どこの組織でも人材不足が問題となっています。そのため、少ない労働力で多くの仕事を進めるために、業務効率化・生産性の向上が謳われています。

個人のパフォーマンスをいかに上げていくのか? 組織として大きな課題です。そこで、組織活性化を行うことにより、従業員は主体性を持って行動できるようになります。

主体性を持つことで、スキル習得への意欲や、新たな仕事に対して積極的に動くようになるでしょう。さらに、従業員間のコミュニケーションも活発になり、上司から部下による育成や同僚同士のスキルシェアなども期待できるでしょう。

聴く姿勢は相手からの共感や信頼感にもつながります。マインドフルネスを基本としたコミュニケーションを取ることによって、組織における関係性も向上します。また、自問自答することは、調和、尊敬、共感、繋がりを基盤に、根本的な基本的人間性の復活への手がかりになります。

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マインドフルネスとは

「今、この瞬間」の自分の心や体、周囲の状況に注意を向けている状態のこと。実践することにより、さまざまな効果が得られることが科学的に検証されています。

しかし、実践する際にそうした効果を得ることを目的にしてしまうと、効果が得られないというパラドックスが生じるので注意が必要です。

企業研修でマインドフルネスを実践後、「自分には向いていない」と自己判断する人がよくいます。

なぜなら、ずっと雑念が湧きっぱなしで無心になれず、いっこうにすっきりしないというのです。

おそらく、「無心になる」「頭の中がクリアになる」という特定の状態を目指し、そこに到達できないもどかしさを感じているのでしょう。しかし、そういった評価や判断を手放すことが、マインドフルネスの大切な要素です。

あるがままの状態を観察するマインドフルネスは、ビジネスパーソンがしがちな目的思考や達成思考とは相反するものです。

基本的に、私たちは常に雑念が湧きますし、注意散漫になります。そういう状態に気づいていることがマインドフルネスであり、決してすっきりした状態になることを目指すものではありません。その点を誤解して、つまずいてしまう人が少なくありません。

もう一つ大切なことは、マインドフルネスの効果は、習慣化することで得られるものだということです。 以上の前提を踏まえて、マインドフルネスの効果について解説します。

1. 注意力をコントロールできる 

マインドフルネスの基本的なワークである「マインドフルネス瞑想」では、自分の呼吸に意識を向けることによって「注意力」、つまり一点に注意を向ける力が高まっていきます。瞑想を続けてしばらくたつと、注意力が低下して他のことに意識がそれることがあります。

そのことに気づく能力のことを「メタ注意力」と言います。 注意がそれたことに気づく→注意を呼吸に戻す→また注意がそれたことに気づく→注意を呼吸に戻す。これを繰り返すことで、注意力が鍛えられるのです。

ハーバード大学の調査によれば、働いている時間の約半分(47%)は注意散漫になっているそうです。脳科学の研究では、瞑想の経験がこうした注意散漫の減少や、注意力のコントロールに関連した脳の機能を向上させることがわかってきています。

よって、マインドフルネスを習慣にすることで、注意力をコントロールできるようになり、集中力が高まり、生産性向上へとつなげることができます。

2.感情を制御できる

「今、この瞬間」の自分の感情に客観的に気づくことで、行動に移る前に立ち止まれるようになります。 感情を制御することで、衝動的な反応やストレスを抑制することが可能になります。

衝動的な感情を司っているのは脳の「扁桃体」という部分で、もともとは人間が周囲に脅威を感じたときに命を守るため、反射的に体を動かすために発動する器官です。

つまり、何か脅威を感じたときに扁桃体が発動して、感情的になってしまうわけです。

マインドフルネスを実践していると、扁桃体の反応が緩やかになることがわかっています。マインドフルネスの状態から衝動的な感情に気づくことができ、アンガーマネジメントなど感情のマネジメントができるようになります。

3.自己認識力が高まる

自己認識力とは自分の状態に気づく能力で、自分の感情、身体、資質、好き嫌い、長所・短所などを知る能力と言われています。

マインドフルネスを実践すると、自己認識力が高まるため、ネガティブな「思考」「感情」、「不安」「不快」などを認識できるようになります。

その原因を取り除くための行動を取ることで、ストレスが軽減し、レジリェンス(困難に適応できる能力)が高まると言われています。

このようにマインドフルネスに関する脳科学のさまざまな研究をメタ分析すると、注意力のコントロールや感情の制御、そして自己認識力を司る脳の領域を変化させることが明らかになっています。

4.リーダーシップが身につく

自己認識力は、リーダーシップに不可欠な能力です。GEのCEOだったジャック・ウェルチが、CEOを退任する際の記者会見で「なぜ、あなたは20世紀最高の経営者と言われるようになったのか」という質問に「自己認識力」と回答しました。

以来、自己認識力を高めることが、リーダーシップの基盤として重視されるようになりました。

自己認識力を高めることによって、自分が本気で何を目指して、どんなふうに生きたいのか、といった「内発的動機」や、「ビジョン」、「使命」が見えてきます。そうした自分の信念や使命感に基づいて行動する姿は、人々を引きつける求心力になります。

5.組織における人間関係性が向上する

「今、この瞬間」に対する注意力が高まることで、相手の話を注意深く聞くことができるようになります。

また、感情を制御できるようになるため、部下に対して感情的に接することも抑えられるようになります。さらに、自分の周囲に対するネガティブな評価や判断にも気づけるようになります。

このような評価や判断は、自分の勝手な思い込みや固定観念によって行われている場合があり、周囲との良好なコミュニケーションを妨げることにつながっていきます。

マインドフルネスのワークの一つに、相手の話を評価したり判断したりすることなく、あるがままに聴く「マインドフル・リスニング」があります。相手の話に注意を向けて「ただ聴く」ことによって、自分の無意識の偏見に気づくことができ、相手への共感が生まれやすくなります。

自分だけでなく、周囲との接し方にもプラスの影響を与えます。 かつてのように、盲目的に仕事をこなすやり方が推奨される時代は終わり、意味や価値が求められています。

モチベーション維持向上に

「何のために働くのか?」「この仕事に意味はあるのか?」といったモチベーション維持向上に、マインドフルネスの実践は効果的でしょう。     

参考文献:『最高の瞑想』 PRESIDENT 2022/9/16号    

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