ちゅうちょせずに"やってみる“

 コーネル大学の心理学教授、ティモシー・ギロヴィッチ氏は、「人間は、失敗したことより行動を起こさなかったことを2倍後悔する」と述べておられています。

なぜだろう?  なぜならば、私たちは失敗を正当化するが、何も試みなかったことについては、正当化できないからです。

運のいい人は、失敗についてはくよくよ悩まず、教訓として学びます。そう、彼らは楽観的な説明スタイルを持っています。これは多くの研究によって裏づけられています。

運を引き寄せるためには、まず自分の心を穏やかに保ち、目標に向かって努力することが大切です。また、ポジティブな思考を心がけ、感謝の気持ちを持つことも重要です。

さらに、積極的に行動し、新しいことに日々挑戦し、努力することで、運を味方にすることができます。 機会を最大限に生かす行動をしなければ、運のいい人にもなれないのだろうか?

 実はそうだ。「人は、やらなかったことを最も後悔する」ということわざは真実であります。

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 運をつかむ

  近年、運という不確実性に科学が挑みだしました。20世紀まで、人間は不確実性をコントロールすることは不可能で、運はどうにもできないものだと考えられていました。

 しかし、そんな時代は終わりを告げ、不確実性を研究、探求することで、「運をよくする」ことにつながる行動を、科学が気づき始めました。

例えば天気です。この不確実なものを人が変えることはできませんが、予測はできます。運動会の日に雨が降る予報であれば、予定を変更したり、場所を変えるなどの対応はできます。

運という不確実性に対しても、同様に対応ができるのではないかと科学者たちが考え、少しずつ運をよくする法則が解明されてきています。  

気づく力を磨く

自然界の虹も流れ星も、比較的珍しい現象と思われています。なぜなら多くの人が、めったに見ることがないからです。

でも実際、それらが見える確率は意外に低くはありません。自然現象は見つけた人の前だけで起きているわけではありません。見ている人はいなくても、この瞬間にもあなたの近くで起きているかもしれません。

つまり全員にほぼ平等に、見るチヤンスはあるはずです。なのに、それを見つけることができないのは誰のせいでしょうか。

そうです。自分自身のせいにほかなりません。チャンスは全員にほぼ平等に与えられています。チャンスを見つけられる人と見のがす人がいます。

運とは予測不可能なランダムウォークモデル(一見すると無秩序に見える現象の中に、確率的な動きのパターンを見出す数学的なモデル)と思われていました。これはビジネスパートナー、勤めている会社、結婚相手など、すべての出会いについても言えます。

ほかの相手を選んでいたら、自分の人生はどうなっていたのか。 そう考えると出会いには、「たまたま」が大きく影響しているように思われてきましたが。 私たちが生きている不確実性に満ちた環境を、変えることができないのであれば、自分自身が変わることが、重要です。

そのためには磨いておくべきは、気づく力と、見つける目です。自分の内なるものと、不確実性に満ちた社会、どちらにも運を上げるもととなるチャンスはきっとやってきます。 そこで少しずつ科学が解明してきた運をよくするポイントを紹介します。

運のいい人は「食わす嫌い」をしない

まず、1年のうち2時間は会いたくない人に会うこと。 運のいい人は、苦手な人ともつきあいます。

とくにはっきりした理由はありませんが、なぜか苦手、できれば接点を持ちたくないといった人がいませんか?

 運を上げるためなら、会いたくない人とも会うのがおすすめです。 というのも自分が苦手に思う人は、自分が見逃しているチャンスを、反対側の視点から見つけてくれる可能性があります。

自分のなかにあるはっきり見えない、気がつかない弱点を指摘してくれます。とはいえ言われたほうは、嫌な気持ちになり、そういう人との会食は、苦行のようなものです。しかし、この「嫌な気持ち」が実は重要なのです。

その人が運を見つけさせてくれ、福をもたらす存在に変わる可能性もあると思います。自分では伸ばせなかった筋肉を伸ばしてもらうストレッチのトレーナーと同じです。

ストレスを上手に適応

脳のシナプスはストレスで活性化します。とくに組織のなかでは、苦手な人の存在が、なおさら貴重になるケースも多いようです。

全員同じ方向しか見ていない組織よりも、さまざまな視点がある組織のほうがチャンスを発見し、困難も乗り越えるようなレジリエンスの高い組織と言えるのではないでしょうか。

つまり、視点はひとつではないことが重要です。とにかく生き延びることが、組織の運のよさだとしたら、違う視点がいっぱいあるほうが強いということになります。

さらに、視点の方向が違う苦手な相手とのあつれきさえも、運を強化するための要素のひとつになりえります。

歴史上の偉人たちには、苦労をしている人が多いと思いませんか?  有名企業の創業者といえば、必ずや有名な過去の苦労話があるほどです。また、ピンチをチャンスにしたというのもよく聞く話です。  

脳は刺激を好む

脳科学の世界でも、ピンチが成功を呼ぶ仕組みが解明されています。ヒトの脳のなかで神経細胞同士をつなぐシナプスは、一定のストレスがかかったときにつくられる傾向があるそうです。

たとえば、人の体はウイルスが侵入した非常時になると、それと闘うために免疫細胞が活発に働きます。同じように脳も「適度な」ストレスがかかった状態の方が、より活発に活動することがわかっています。

適度なストレスレベルのポイントとは、その人にとってちょっとむずかしいが、少しアクセルを踏めばなんとかなるかも……というあたり? 人生の岐路に立たされて選択に迷ったとき、あえてリスクのありそうな道を選ぶほうが、意外に正解です。

サルなどの動物も、いつも一定量のエサが食べられる安定した生活より、時にはいつもの半分のエサしか食べられない、また、いつもの倍のエサが食べられることもあるなど、ギャンブル性の高い生活を選ぶという実験結果もあります。

リスクのあるときのほうが、脳の報酬系が活発に働き、よい結果を生む確率が上がるということです。

つまり脳は刺激を好むチャレンジャーなのです。この行動が「運を上げる」へと導くのでしょう。

 参考文献:『運を上げる習慣』 PRESIDENT 2025/01/17号    

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